『・・・ ・・・ ・・・さ・・・い・・・』


『・・・ ・・・ ・・・ ・・・ゆ・・・』















  【  人 形 の 見 る 夢  】  



















第2夜-1夢
















赤々と燃え立つ炎は、あるときは温もりであった。


赤々と燃え立つ炎は、あるときは優しさであった。


赤々と燃え立つ炎は、あるときは営みであった。


赤々と燃え立つ炎は、いつも人々と共にあり、恵みを享受させてくれるそんな存在であった。


そんな炎は、人の文化を栄えさせるために神が人へと下賜した尊きものであると、大人は幼子達に教え伝えた。それに次いで、それに安易に手を伸ばせば神の裁きが下るであろうとも。


それらは、暗に炎に手を伸ばせば、その高温の熱で火傷し大怪我を負うから気をつけろ、という格言の一つではあったのだが、子供達はそれを信じ、畏れた。


だから、というわけではない。


村のすぐ外にある草木の生い茂る隙間から、二つの影はただ呆然と村を取り囲むように燃え立つ炎を眺めるしかなかった。


先程まで平穏で長閑な村だった。この国の中央軍事政府機関がある首都レギオンからは随分外れた地方にあり、ほとんど軍事政府の介入もないため、穏やかに暮らしていた。


村にいる全ての人間が農業に従事し、小麦や野菜を栽培して生計を立てているような村だった。


そんな村だから人口もたかだかしれている。皆が皆顔見知りも同然であったし、村一つがある種家族のようなものだ。事件も起きない。喧嘩もあって子供たちのそれぐらい。


そんな平和であったこの村が今や様変わりしていた。


昨日まで共に笑い、遊び、学んできた友を。


時に叱り、時に両手で抱えきれぬほどの愛を与えてくれた家族を。


そして、いつも自分達を家族のような暖かく見守ってくれた村の人たちを。


ただ逃げ回ることしか出来ない何の武力を持たない彼らへ向けて、奴らは、自分達の行いの正当性を声高に吐きつつ、掲げられた剣を振り下ろしてゆく。


辺りには、村人の恐怖と絶望に彩られた生命の断末魔(ひめい)が響き渡り、噎せ返るような濃い血の香が満たしていた。そして、神の炎たるそれは、まるで魂を宿しているかのように這いずり、蠢き、倒れ息絶えた者たちを次々と飲み込んでは灰へと還してゆく。


普段は穏やかに村を吹きすぎてゆく風は、今日は炎を煽り立てるだけ煽り、その熱を煙を空高く運んでいった。


見上げた空は、昼下がりに見せる常の透き通るような蒼さではなく、重く垂れ込むような黒煙が一面に覆いつくし、熱風によって煽られた炎の欠片が空で爆ぜ火花を散らせる。そのちらちらと発せられた火はまるで、消えていく人の命のようだった。


その繰り広げられるその惨劇を目の当たりにして、まだ十にも満たない子供に一体何が出来、何を理解することが出来ただろう。


突然の襲撃者に、殺害されていく村人たち。その襲撃者によって放たれた炎は、自分達の家を焼いてゆくのだ。


運よく難を逃れ、身を潜めるようにしてその光景を呆然と見やっていた一つの小さな影が、ふらりと立ち上がるや燃え盛る村のほうへと足を踏み出した。


「!エレミヤ・・・!!」


それに気がついて、慌てて押し留めるようにその影の手を掴み些か声音を落として叫んだのは、まだ声変わりも始まっていない子供のものだった。


そして、名を呼ばれてもなお茫然自失とした状態で村へ行こうとするのは、またしても幼い子供。肩口で切り揃えられた金茶の髪は、村を覆う様に燃え盛る炎の色を写し取り、紅く染め抜かれていた。空ろな瞳を村へと向けたまま、ぶつぶつと小さく呟く。


「・・・と、さま・・・ぁ、さま・・・」


「エレミヤ!!」


村ではまだ、悲鳴が聞こえている。それに加えて聞きなれない大人の声も。


それが襲撃者のものだと考えなくとも分かった。


「・・・ゃ!イザヤ・・・はなして・・・・・・と、さまが・・・か、さま・・・み、んなが・・・・・・」


「エレミヤ!いっちゃダメだ!今いけば、エレミヤもコロされてしまう」


イザヤの掴んだ手が離れないのを我武者羅にもがきはずし村へ向かおうとするエレミヤの腕を、イザヤは捉えて離さない。そして、イザヤは村とは反対にある森の方へとエレミヤを連れて行こうとその足を動かした。


「ゃっ!はなして、いかなきゃ、みんなが・・・・・・っ!」


エレミヤは泣き叫ぶような悲鳴をあげて自分を捕らえる背後の人物へと振り返り息を呑んだ。


そこには大粒の涙を眼にため、血が滲むほど唇を噛み締めたイザヤの姿が目に入った。


その表情は、何も出来ない自分への不甲斐なさからくる苛立ちや、無常なる者達への怒り、そして、愛するものたちを救う事も出来ず、また、喪うことへの悲しみ等、様々な感情が浮かんでいた。


それを理解したのか、はっとしたような表情を浮かべたエレミヤは、もう村とは言えないその場所に一度だけ視線をやったのち、イザヤに一つ頷いた。その仕草で、エレミヤの大きな瞳から零れ落ちた大粒の涙が地面にいくつもの染みを残したが、熱風や地熱によってすぐにそれは乾いていった。


小さな子供の影が二つ、その場から消えたのはすぐその後のことであった。














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コメント:ここで出てきた子供二人の名前は、個人的に響きが気に入って使ってます。

イザヤとエレミヤ・・・もしかすれば、その道を知る方なら分かる名前かと思います。



話は変わり、今作もまた、流血やらといった生臭い話になります。

苦手な方はすみません(汗)

なんせ管理人は、こよなく頽廃を愛しておりますので、やはりそういう面が多くなっていってしまう模様です。

一応、今回も五話完結ぐらいをみているのですが、もっと短くなるか、長くなるかは今のところ小説としてのプロットが出来ていないためなんとも言えないところです。

そして、更新も早く出来るか遅くなってしまうかもまだ分からない私的状況ではあるのですが・・・漫画では完結させている分、大まかな話の筋道は立てられているので、出来る限り早めの更新を目指していきたいと思っています!

それでは、ハジメガキとしては長くなってしまいましたが、これからもどうぞよろしくお願いいたします!>