その答えは、
YESである。


















 【 絢 爛 舞 踏 祭 】 



















それはとても、短く、長い夢だった。

こう言ってしまえば、誰しもが首を傾げるだろうが、それ以上端的にそれを説明することなど出来なかった。

それらを言い換えるならば・・・そう例えば、メビウスの輪の中に放り込まれたかのような錯覚に陥る、そんな夢。

始まったかと思えば、終りをむかえ・・・終りがあったかと思えば、新たな始まりが起こる。

一つ一つの夢などとても短い。

あるときは始まって数分後には終りをむかえたことだってある。

しかしそれらが途方もなく繰り返されてゆけば、それは無限に広がってゆく。

もしその真実の終わりが来るとしたら、それは今この目覚めから始まる終りの結末が、その時々の目的を達成せしめたときなのではなかろうか――と、そう結論付けたとき、この器の次なる夢と言う名の現実が始まったときだった。














暗い夜の海の水平線の先に陽の光が溢れ出してきたときのように、黒に塗りこめられた思考が徐々にクリアになってくるのを意識の遠いところで感じながら、オリトは、重い瞼を押し上げた。

そこに飛び込んできたのは眩い白。光だ――と、思考回路が繋がってそう認識した瞬間、瞼が二、三度視界を覆いつくし、その後ゆっくりと開かれたそこは光と感じたそれが室内灯のものだと認識できるほどに慣れた。そして、開かれた視界の先にあるものが天井であるところから、現在自分が何処かに寝かされていると言うことに検討がついた。今ある現状を把握するため周囲にゆっくりと視線を巡らせば十数の同じ形をしたベットが整然と並べられており、棚には何かの薬品のようなものが整然と並べられている。どうやら医務室のようだ。

ふと、反対側から視線を感じ、そちらへ目をやれば、二十代前半ぐらいの眼鏡をかけた理知的な一人の男が椅子に腰掛けていた。

やおら男と視線が交わると、その男は椅子から立ち上がりゆっくりとした足取りでやってきた。

彼が側まで来ると、自分が寝たままというのは失礼なのでは?と思い至り、オリトは体を起こしベッドに腰掛けた。

「意識はあるな?その身体にも、違和感はないようだ」

男は起き上がってくるオリトの様子を見、満足そうに頷き「予定通りだ」と呟き、僅かに唇の端を上げた。

男は視線を右上方の虚空へと投げると、「MAKI」と何処へともなく声をかけた。

すると、それに呼応して何処からともなく女性の声で応えが降ってきた。

男はその<MAKI>と呼んだ今は姿の見えない女性に対して、話し続ける。

「乗員達には、漂流者発見と。パイロットとして、新しい仲間に迎え入れると説明しておいてくれ」

男がそういうと、MAKIは短く了承の返答を返す。

それに満足したかのように男は一つ頷くと、オリトへ視線を戻し暫し沈黙の後、さて、と切り出し、軽い自己紹介の後今の現状説明を始めた。

「俺は、ヤガミ・ソーイチローだ。ここは火星独立軍、夜明けの船という船の中だ」

<火星独立軍、夜明けの船>と、オリトは心の中で小さく復唱してみると、己が果たさなければならない目的を思い出しはっとした表情を浮かべた。

「我々は火星の海の中を真の平和求めてこの艦で活動している。・・・逃げ回ってる、と言ってもいい。お前はこれから、火星独立軍の一員として、太陽系を含む銀河系での不毛な争いを止めさせるために動く事になる」

ヤガミの言葉に神妙な面持ちでオリトが頷き返すのを、口元だけに笑みを浮かべてヤガミは続ける。

「所属部署は飛行隊。RBパイロットだ。そしてその体は、お前がこの世界で行動するために作られた義体だ。せいぜい人間らしく振舞ってくれ」

人間らしくねぇ・・・と苦笑を浮かべれば、ふと、オリトの頭に暖かな重みが加わり、そして緩く撫でられた。

それがヤガミの手だと分かった瞬間、オリトが驚いて顔を上げれば、それと同時に離れていく手。呆然と見送っていれば、頭上の高い位置で微かに空気が震えたのが分かった。

「ようこそ火星へ、オリト。我々火星軍は、お前を歓迎する」

この瞬間、<火星独立軍 夜明けの船パイロット>としての“オリト”は、始まった。











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<コメント:最後、ヤガミになんて主人公頭撫でられてないしね!私の中の妄想プログラムが勝手に起動しただけですが。>