その答えは、
YESである。


















 【 絢 爛 舞 踏 祭 】 


















「へへっ!よう、新顔」

オリトが医務室を出た途端に明るい声がかかる。その方向に視線をやれば、ピンクの髪が印象的な少年がいた。

「俺、小カトー・タキガワ。よろしくな、新米パイロットさん」

小カトー・タキガワと名乗ったその少年は、ニカッと笑って右手を差し出した。

「こちらこそ、よろしく。俺は、オリト・イチノセだ」

オリトはそう言って差し出された右手を軽く握ってこたえると、タキガワはふと何か思案するように、ううんと唸ったあと納得したかのように頷いた。

「ふーん、やっぱそうか・・・。あれって・・・、アンタのRBになっちゃうんだ」

「・・・?」

そのタキガワの言にオリトが小首を傾げてみると、タキガワは苦笑交じりに肩を竦めてみせる。

「俺、あのRB、目ェつけてたんだけどなー。おっと、俺もRBのパイロットさ。絶対にこの船のパイロットになれってご先祖様の遺言なんだ。だから、ここに来て、パイロットをやってる」

それに神妙な顔をして頷くオリトにタキガワは軽く噴出して、「アンタだって同じようなもんだろうに」と笑い始めた。

なぜそんなに笑われなければならないのかが分からないオリトが憮然としてみれば、笑いすぎて眦に浮かんだ涙を拭いながら、タキガワは軽い調子で謝罪の言葉を口に乗せる。

「わ、悪かったよ、笑っちゃって。あんまりにもあんたが第三者的な反応するから面白くてさ。まぁ、そのお詫びってわけじゃないけど、ハンガーデッキに行くまでにあらかたここの説明とか案内してやるからさ、勘弁してくれよ、な!」

オリトがため息混じりにその了承を伝えれば、タキガワは満面の笑みを浮かべてこちらにくるりと背を向けた。

「じゃ、付いて来て。アンタのRB見せてやるから」

そう言うやいなやタキガワは、元気良く走り出して行ってしまう。

先ほどハンガーデッキに行きがてら艦内を案内してくれると言っていたにもかかわらず、その足は随分速い。オリトが呆然としているうちにタキガワは、一度も背後を振り返ることなく、すでに随分先まで行ってしまった。このままでは、置いていかれるのも、また迷子になることも必死。

オリトが我に返ってタキガワの向かった先を慌てて追いかけ始めたときはすでに、少年の姿はエレベーターホールへと消えていった後だった。

















「これが、RB・・・俺の機体(希望号)か・・・」

現在、夜明けの船は次の目的地に向けて航行中であり、乗員には半舷休息が発令されている。これは左・右舷が十二時間交代でそれぞれ当直任務につくことだとタキガワが教えてくれた。

先ほどまでここ第二ハンガーデッキでは、整備員であるネリ・オマルがそれぞれ格納されているRB間のハンガーデッキを行ったり来たりとその整備環境チェックに追われていたし、本日付でパイロットとなったオリト自身もまた、いつ実践が行なわれるか分からないため、実践用シュミレーションを使用して、本格的にRB搭乗から戦闘終了に至り帰艦するまでの一連の流れを先輩パイロットであるタキガワによって叩き込まれていた。

そう、言葉の通り叩き込まれていた・・・身体に。

タキガワ曰く、技術は日頃の訓練と多くの経験でいくらでもついてくるものらしいが、技術も経験もない人間には、とかく、頭で理解するのではなく身体が反射的に動けるぐらいの動作を短時間集中で繰り返させればいい・・・とのことだ。

実際、十分単位での搭乗シュミレート、出撃、飛行、戦闘、帰艦を繰り返しやっていくうちに、頭が次を考えるうちに、手が足が勝手に次の動作へと移っていくようになり、二時間ほどで、基本的な動きをマスターすることができるようになった。

RBというものさえしらなかった人間からすれば、大進歩である。

そう・・・二時間と少し前まで、オリトはRBが一体何なのかさえ分からない状態であったのだ。それが判明したときのタキガワの驚きようは凄まじかった。目は零れ落ちそうなほど見開かれ、口は顎が外れてしまうのではないかと思うほどおち、しばし意識を飛ばした後復活したタキガワは、RBの通信をOPENにし船橋にいるであろう飛行長であるヤガミへと繋いだのだが、一向に出る気配のないことを悟るなり何かを呟いた後、通信を切断、オリトへと姿勢を戻した。それからは、現在に至るまで、鬼のような形相でタキガワが手取り足取り、その技術を叩き込んでいった。

そのおかげで、とりあえずのところ、本当の意味での新米パイロットとしての体裁程度の技術は、見につくことができた。

タキガワから一応のところ及第点をもらえたところで、半舷休息が言い渡され、今は各々休息に入ったところだった。

休息に入るや否や、タキガワは「腹が減っては戦は出来ぬ」と言って、食堂へと走って行ってしまった。途中ハンガーデッキ上り口の階段を二、三上ったところでオリトに一緒に食事に行かないかと誘われたが、「もう少しだけRBの技術勉強している」と伝えれば、無理だけはするなよ、とニカリと大きく笑って出て行った。

オリトはしばらく技術訓練にあたっていた。なんとか納得がいく訓練が出来始めた頃には辺りは照明を落とされ、サブ電源に切り替えられ薄暗くなっており、いつの間にかネリもハンガーデッキから姿を消し、薄暗いデッキの上、世話しなく動いているのはメンテ用のBALLSのみだった。

静かになったハンガーデッキにオリトは一人佇み、自身に宛がわれた機体の前に佇んでいた。何をするわけでもなく、ただじっとRBと向かいあう。

「これからこれに乗って戦うんだよな・・・ははっ、まだ全然実感がわかないな」

苦笑し呟くように発せられたオリトの声は、通常勤務時であれば掻き消えてしまうほどの声音であったが、今や誰も居ないその空間に静かに反響する。

「俺に出来るだろうか・・・たった三年で、この戦いを終わらせることが・・・本当に」

そうするためにこの世界にいるのだが、まだ戦場にもでたことのないオリトには確かなる実感も感じられず、それが途方もない旅路に思えた。

オリトは一つため息をついて、静かに瞼を閉じ頭を垂れる。

在るのは暗闇だけ。

聞こえるのは、さきほど医務室でヤガミから告げられた言葉だけ。

心の中を、頭の中を、負の感情がぐるぐると渦巻き始めた。

<フォン――。>

突然、頭上高くから発せられた機動音に驚き、オリトは頭を上げてみれば、そこには、オリト専用の機体であるRB<希望号>の目が淡く光を発していた。

「・・・お前」

希望号の発するその明かりをじっと見つめたいると、なぜかとてつもない安堵感が、オリトの心を満たしていく。

「ははっ・・・そうだよな、俺一人で戦うわけじゃない。タキガワもヤガミもみんながいるじゃないか!お前も!!」

オリトの言葉にでも反応するかのように、希望号の発する目の明かりが強まったように感じた。

「一緒に戦おう・・・よろしく頼むぜ相棒!」

オリトはその様を嬉しく思い、じゃっかん強張ったままの顔に笑みを浮かべ、RB<希望号>へ手を伸ばした。














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<コメント:ここまで読んでいただいてありがとうございます!ここまでが一応導入部・・・ということで、これから日常生活的な話にいけそうです。>