『・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・て・・・』


『・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・き・・・ ・・・て・・・ ・・・』


『・・・ ・・・ ・・・と・・・ ・・・ ・・・て・・・ ・・・か・・・』













  【  人形の見る夢  】  





















1-(2)


















「・・・ う・・・ん」


ふと感じた肌寒さに目が覚めた百合を待っていたのは、薄暗い闇だった。


否、闇というには些か語弊があろうか。何せ見下ろせば自分の手の輪郭も、僅かだが肌の色も辛うじて判断できるほどには辺りは明るいのだ。それは、この室内に人一人が通り抜けられる程度の明り取り用の小窓が一つついていたために、外の明りがそこから入り込んで、視界が本当の闇につつまれるということがなかった。


だからか。百合はさほど恐怖に怯えることもなく、今自分の身に起こったことを反芻することが出来た。


「・・・私、さっきまで孝之と天神神社に居たはずだけれど・・・ここは、どこかしら・・・?」


ぐるりと周囲を見渡せば、村では見たことの無い―都会でさえおそらくここのようなものを持つ家はないだろうが―どこか異国の様相のように思えた。明り取りの窓の桟枠一つとっても、室内にある唯一の家財であろう文机を見ても、この薄暗さの中でもはっきりと分かるほどの綿密で精緻な細工がなされていた。


随分豪奢な宅なのだろう。


思えば、今自分が寝かされているこの布団でさえ、上掛けも敷布団もこの中に居てさえ分かるほどの白さと光沢があり、指触りが非常に柔らかだった。


「こんな立派なところなんて村にはないはずだけれど・・・?」


混乱する頭で考えるせいか、百合には、なぜ自分がこんな見知らぬ豪奢な室内で寝かされていたのか思い出すことが出来ない。


(お、落ち着いて思い出さなきゃ・・・ ・・・私、孝之と一緒に天神神社で話をして、それから・・・ ・・・二人で村へ帰って・・・ ・・・ううん、違う!村へ帰る途中そこで・・・!)


一つ思い出すと、次々と芋づる式に記憶が溢れ出してくる。


それは、百合自身にとっても思い出したくもないことさえも・・・。


百合と孝之が天神神社から帰る途中、村の若い衆で村会に出ているはずの北村という男が村会へ出席するよう百合を呼びに来た。村会は、女人禁制であるためどんな緊急な事態が起こったとしても女性の室内への立ち入りは許可されず、その時には入口に見張りとして立っている若い衆の一人に用を伝え、その男が村長に意向を聞きに行くということに村の掟でなっていた。それなのにもかかわらず、百合を出席させるというのだから、何か異常な事態がおこっているともいえよう。


『・・・掟により、村会は女人禁制のはず!それにもかかわらず百合を出席させるというのは、どういうことですか!!北村殿、ちゃんと説明してください!!』


いつも温厚で人当たりの良い孝之には信じられない剣幕で北村に詰め寄るも、彼は一向に動じることなく、『百合殿を村会へ出席させた後、貴方には村長からお話が』の一点張りでそれ以上の言葉を発することは無かった。


そんな状態に辺りは緊迫した空気が漂う。


暫くして、別の若い衆の男が来て、孝之を宥め、北村が百合の二の腕を掴んで引っ立てるようにして集会場まで連れていった。


村会が行われている集会場には、奥の神棚の前に村長が座りその前の神棚に向かい右側に長老方が八名、左側に若い衆が七名胡坐をかいて座し、百合を連れてきた北村は掴んでいた百合の細い腕を放すや、村長と神棚へ二礼し若い衆の列に入っていった。


『・・・村会は掟により女人禁制故、主が入ることは許されぬのだがな』


戸惑う百合に声を掛けたのは、正面に座す孝之の父であり百合の義父でもある村長であった。


『しかし、主には承諾してもらわねばならんことがある』


その重々しい口調と周囲を包む只ならぬ雰囲気に、百合の胸中は不安と脳裏を掠める嫌な予感でいっぱいとなり俯きぎゅっと瞼を閉じ、必死に心の中で孝之に助けの声をあげていた。


義父の声をこれ以上聞きたくないと百合は直感的に思った。聞いてはならないと・・・。ここから逃げたいと思うのに身体が動こうとしない。足が床と一体化したかのように・・・歩くことを忘れてしまったかのように棒立ちしたままだ。


義父は続ける。その言葉を聴きたくないと思う百合の心を裏切って。そして、紡がれた言葉は―――・・・


『主に竜神様への人身御供になってもらう』


それは、承諾を請う者のそれではなく、すでに決定した百合の未来であった。










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≪コメント:「文才が欲しい、文才が欲しい」と、唸り悩みながらの2話目です。現段階のプロットでは、このお話自体を一応4〜5話ぐらいで一つの夢が完結するように作られてます。今で2話目ということですが、次回には龍神様がご登場予定です。あまりお待たせすることなく続きを書きたいのですが・・・現段階において、スランプ真っ只中なので何とも言えませんが・・・気合で更新頑張ろうと思います★≫