『・・・ ・・・きてく・・・ ・・・いよ・・・ ・・・かい・・・ ・・・じまっ・・・ ・・・で・・・』


『・・・ ・・・くださ・・・ ・・・たたか・・・ ・・・うと・・・ ・・・て・・・ ・・・ですから』














  【  人 形 の 見 る 夢  】  























1-(4)



















初め竜神によって与えられたのは、痛みだった。しかし、すぐに与えられたの甘美なるまでの快楽。頭の芯まで溶け落ちてしまいそうではあったが、百合は何の反応もしなかったし出来なかった。百合の心は、村長の孝之の裏切りによって砕かれ、もう何かを感じることは出来なくなっていたのだから。


それから
どれほどの時間、どれほどの日々を竜神の手によって嬲られ犯され続けたのか・・・また、あれから幾日が経過したのか百合には分からなかったし、自身どうでもいいとさえ思っていた。


今、百合のそばに竜神はいない。いつ戻ってくるかは分からないが、いつの頃からか時折二、三刻姿をくらませることがよくあった。部屋は最初に連れて来られた場所から変わらず、明り取り用の小窓があるだけの薄暗い部屋だった。そこからもれ出る明かりはいつもかわらず一定で、外が昼なのか夜なのか・・・はたまた晴れているのか雨が降っているのかさえ分からなかった。


蛾が光を熱を欲するように、百合もまたその明り取り用の小窓の下までゆき壁に背を預け、無事な右足を抱え込むようにして座り込んでいた。


百合の視線は、生気のこもらないそれで部屋に小窓から刺さるように入り込む明かりの道をただぼんやりと見上げていた。


ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・。


ふと遠くから何かが掛けてくるような音がすることに、百合は瞼を瞬かせた。いつもは百合が発する音か竜神の
奏でる音しかしないこの空間に、初めて別の音が割り込んできた。


それはどこか急ぎ慌てているかのようで、時々転げそうにでもなるのか踏鞴を踏むような音さえ聞こえる。


音は、だんだんと百合の居る部屋の側までくるとピタリと止んだ。


竜神ではないだろう。こんな風に騒々しくすることは今までなく、いつも一定の間隔を保ちつつ近づいてくるのだから。


それではこの音の主は一体誰なのだろう・・・百合はそれが気になった。


音は、止んだの後、暫して壁を三度微かに叩くような音が聞こえた。


それからその音は室内の様子を窺うようにして、もう一度三度叩く。百合は、擦れた声で誰何の声をあげれば、壁越しに音の主が息を呑んだのが分かった。そして、その瞬ののち我にかえった声の主が発したその声を聞いて、壊れていたはずの百合の心が戻ってくるかのような感じがした。


「百合だね、そこに居るのは!僕だ、孝之だ、百合!!」


「た・・・孝、之?」


「そうだよ、僕だ!君が竜神の人身御供にされたと聞いて助けに来たんだ!!今すぐ其処を出してやるからちょっと待っていておくれ!!」


孝之はそう言うや、壁に梯子を立て掛けさせ上り、小窓の桟枠を持ってきていた工具で器用に取り外し、室内へと縄を落とした。


「さぁ早くその縄を掴んで!僕がひっぱりあげるから」


しかし百合はそれに嫌々をするように頭を振り、小窓のあるほうとは反対の壁の方へと座ったままの状態で後ずさる。


「何をしているんだ、百合!早くしなければ竜神が戻ってきてしまう!!」


孝之の急かす声に、百合はなおも嫌々をする素振りを見せ叫んだ。


「あなたの言うことなんて信じられない!だってあなたのところには街の豪商の娘さんが嫁ぎに来るって・・・お義父さんはあたしのことを裏切って・・・・・・!!」


「知らなかったんだ!君が村会の後から姿が見えなくて、ずっと探していたんだよ。あれから六日が過ぎて・・・そしたら三日前から急に村に雨が降り始めて・・・おかしいと思って父に問いただしたら昨日になってようやく君のことを話してくれたんだ。そのとき、僕や君に黙って別の縁談を取り進めていたことも分かったんだよ」


百合は小刻みに身体を震わせその場に泣き崩れていった。


「わた・・・私はもう昔のように、ただあなたを想っていられた時のように綺麗な身体はしてないよ・・・こんな穢れた私は・・・孝之の側に行けない・・・一緒に行けないのよ・・・!」


すると、孝之の先程までとは一転して静かで落ち着いた問いかけるような声音が下りてきた。


「・・・穢れているのは僕のほうだよ、百合。・・・君は、そんな僕をきらいになるだろうか・・・?」


「・・・孝之が穢れているって・・・なぜ・・・?」


百合は涙に濡れた顔を上げ、不思議そうに小窓から見える孝之の顔を見上げれば、一瞬孝之との視線が交わりあったが、孝之の方が先にふいと反らして、続きポツリと零す。


・・・父を殺したんだ・・・僕は、この手で・・・」


百合は、孝之の衝撃の告白に驚き息を呑んだ。


「君にしたことのすべてを聞いたよ・・・父はそれを悪びれた様子もなく淡々と・・・ただ話して、仕様のないことだろう、と言って君のことを侮辱した!それが、どうしても僕には・・・赦せなかったんだ・・・どうしても」


孝之はそう言って、自嘲に満ちた笑みを浮かべ顔をあげた。


「百合は・・・こんな僕を嫌いだろう?こんなに・・・こんなにも、肉親の血で汚れた僕なんか、さ」


「そんなことない!・・・そんなことないよ。私は、こんな身体になったけど今でも孝之が好きだよ?愛しているわ」


そう言うや、百合は折れて立てない足を庇うように這いずるように、孝之が投げた縄の下までゆき、それをしっかりと腰に結わえさせ、心からの笑みを浮かべた。


「連れて行って・・・私を。貴方の傍なら例え地の果てまでも輪廻の先までもついて行くわ」


その百合からの言葉に、孝之は泣き笑いのような笑みを浮かべ頷き、縄をぐっと引き上げる。


小窓は、百合の身体でちょうど通れるほどで、それでも難なく通り抜けることができ、暫しの間恋人同士の逢瀬が久しく叶ったのであった。











 ⇔ 




<コメント:次でラスト!!!>