【  人 形 の 見 る 夢  】  

















※ 注意!!!

この先、グロが混在しております。

撲殺・流血が無理だ!ありえない!!と言う方は、ブラウザバックでお戻りくださいませ!!!



それ以外の方は、このままスクロールしていってお楽しみ下さい!




















1-(5)























「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」


暗闇の中荒い息づかいと共に、峠の坂道を足早に掛け上がる音が一つ木霊した。


「孝之・・・無理しないで!私なら大丈夫。ちょっと遅くなるかもしれないけれど、ちゃんと走れるわ!」


「何言ってるんだ・・・無茶だよ、そんな足で・・・この足場の悪い峠道を通れるわけないじゃないか。それに・・・今その折れた足で無理をすれば、悪ければ歩けなくなるかもしれないんだよ?」


「っでも・・・孝之は私を背負ったままずっと天神神社から走っているんだよ!このままじゃ、孝之の身体が心配だよ!」


「僕は大丈夫・・・とにかく、この峠を越えるまでは安心できないからね。少しでもあの村から遠ざからないと・・・」


百合が閉じ込められていた場所。


それは孝之と逢瀬を重ねていたあの天神神社であった。正確には、天神神社の最奥にある竜神を祀っている神殿の隠部屋と呼ばれるところで、そこは通常、竜神を天界から召還する儀式に必要な供物を備えるところでもあった。そのような場所を知るのは、天神神社の神主と村長のみ。孝之は次期村長ということもあり、神殿内部については随分前から知っていた。


百合が人身御供として供されたのであれば、そこしかないであろうと当たりをつけてきたのだ。


二人が天神神社を脱出したのは、彼誰時。西の山の端に太陽は沈み、すれ違う人の顔も判別できぬほどに濃い夕闇が、村を農道を社を黒く染め抜いている。二人とももう村には帰れない。百合は、村の存亡のために人身御供となったがそれから逃げ出すのだ。孝之は、自身の父を殺害し、百合と共に逃亡を手助けしたことになるのだから、二人が帰ったとて、助けてくれるものは誰もいないだろう。二人は村を出ることを決意し、足早に神社前を伸びる農道を峠へと向かい足早に掛け去ろうとした。が、百合が小さな悲鳴と共にその場に崩れ落ちた。


体力が落ちたせいだろうかと、百合の様子を窺えば、自身の左の足首を抑え小刻みに身体を震わせていた。


百合の小さな手をそっと外せば、この薄暗闇でもはっきりと分かるほどに腫れた足首と色は判別できないけれど陰影の濃さで分かる変色した色。孝之は一目で骨が折れて治療も施されていない状態なのだと知り、百合を自身の背に乗るよう促す。


初めは平気だと頑なに拒んでいたものの、何時までも天神神社の前にいるわけにはいかなかった。最終的には百合が折れることで決着が付き、現在に至る。


あれから空は夕闇から漆黒へとかわり、無数の星が煌いていた。今日は幸いにして新月であり、月明かりがなく道行は不安ではあるが、誰かに見つかる心配もなかった。


孝之は、途中何度か息を整えながら百合を抱えなおしては走りを繰り返し、時間はかかったものの、峠の境まできたときであった。


突然、山道から外れた両側から松明を持った男達が飛び出してきた。


その数、十数。松明の赤々と燃え立つ炎の明かりから、その男達が村の若い衆や長老方の幾人かと村の男衆であった。その中には百合の父親や若い衆の北村の姿もあり、皆一様に農機具である鍬や鍬、鎌を持りギラギラとにらめつける様にして百合たちを取り囲んだ。逃げ場のなくなった二人を男たちはじりじりと詰め寄り、孝之らの背後に居た若い衆が孝之に飛び掛り、百合と孝之を無理やり引き離し、孝之を地面へと引き倒した。


百合は痛む足を無視して、必死に孝之へと駆け寄ろうとするが、それを父によって強く引きとめられ行くことが出来ない。


「孝之!孝之!!」


百合が必死に孝之の名を叫べば、地へと倒れ伏したまま取り押さえられている孝之が百合へと顔をむけ、じゃっかん引き攣ったような笑みを浮かべながらも大丈夫とでも言うかのように、頷いてみせた。


「竜神様の御供物を連れ出し、村長をも手をかけ、一体何処へ行こうと言うのじゃ、孝之殿」


長老方の一人の男が声を発した。それに続き他の男衆たちも声を出す。


「やっとのことで村に雨が降ったださぁ、そんでもまだまだたんねぇんだ!」


「お前の勝手に村のみんなを殺すきか?!」


そうだ、そうだと賛同の声は強さを増す。それを若い衆の北村が制するように手を挙げれば、それによって男衆は次第に口を閉ざしてゆく。


「次期村長と言うべき貴方が正気の沙汰とも思えぬこの暴挙・・・どうご説明を?」


その問いかけに、孝之は押さえつけられて動けないか頭を無理やり動かせて、下から北村を鋭く睨みつけた。


「正気の沙汰と思えぬと言いますが、婚姻の儀を取り交わしていないとはいえ、百合は私の妻です。その妻を無理やり人身御供として竜神に差し出すということ自体、貴方方のほうが僕にとっては正気の沙汰とは思えない!私は、ただ妻を連れ戻しただけ。それが何故暴挙と看做しますか!!」


孝之の言葉に北村はその口元に嘲笑を飾る。


「何を申すかと思えば・・・。そもそも百合殿は竜神様に見初められ、望まれて供したのです。神に望まれる・・・これがいかに幸福であることか!普通であれば、竜神様が気に入る娘が現れるまで何人もの娘達が犠牲になるのですよ。それが百合様一人の犠牲で村の多くが助かるのです。むしろ、貴方はそうなられた百合様を誇りに思うべきではありませんか?それをこのようなことをなさって」


「・・・たった一人だと・・・?たった一人の犠牲で良かったなどと、貴方たちははそれでも人間か?!」


北村の言葉を遮るように孝之はわなわなと口元を震わせ声をあげれば、孝之の頭を抑えていた男衆の一人の男がゆらりと立ち上がった。そして徐に己が持参してきていた木槌を振り上げたかと思えば、孝之の頭へと振り下ろした。


ゴツリ。


と鈍い音共に孝之は、ぐったりと地面に倒れ伏す。


「・・・お前、ごちゃごちゃと煩せぇんだよ。だいたい一人の犠牲で村のみんなが助かるんだ。それをああだこうだ言いやがって・・・」


男はそれから何度も木槌を孝之の上へと振り下ろす。周りで見ていた男たちも次々と男に賛同するように、持ち寄った鍬や鍬でぴくりとも動かない孝之へと飛び掛るようにしてそれらを振り下ろす。


鈍い音はすぐにでも水気を帯たものへと変わり、振り上げられたいくつもの農具から飛び散ったそれが周囲へと散布されてゆく。


その飛沫の一部が、少しそこから離れた先の百合の居た場所にも降り注ぐ。


今や惨劇を目の当たりにした百合は、突然のことに呆然とし、百合はその場に崩れ落ちる。そして、男たちが集まるその足元から百合の方へと流水の如く流れ出るもの。松明の明かりで照らされたそれに百合は震える手で触れ、眼前へと持ち上げそれが何かを悟るや百合は・・・――。


「ぃやあぁあああぁぁあああああああああああぁあああぁああああ!!!」


絶叫した後、糸が切れたように、そのまま意識を手放した。






























あれから幾日が経ったことか。


百合は、あの薄暗い部屋に居た。


天神神社の最奥にある神殿の隠部屋である。


百合があの日、この部屋から逃げ出したことを竜神は怒ることなかった。


そして百合は、前と変わらず朝になく夜になく交わりを、その供物としての役割を果たしていた。


村は、何事もなかったかのように潤沢な雨に恵まれるようになったそうだ。


時折村長となった北村が、神主を通して話をしてくることがあった。


今は何ら変わりなく時が流れてゆく。





















否、ただ一つ、あの出来事から変わったことがあった。


それは、竜神が睦言に『お前の心が欲しい』と百合自身へと問うてくるようになったこと。


あの日、あの出来事から心が壊れてしまった百合は、それに対して上の空で、ただいつも何もない虚空へと笑みを浮かべているのだ。























今日もまた、変わらず竜神は百合へと問う。


『お前の心が欲しい』と。


相も変わらず百合は虚空にただ笑みを浮かべるのみ。


竜神はいつものそれに焦れを覚えたのか、独り言のように呟いた。


どうすればお前の心を手に入ることが出来るだろうか』と。


そういつもなら何らの返事も返らない百合がその呟きに対して応えを返したのだ。


「・・・ならば一つ、私の願いを叶えてくださいまし・・・。そうすれば私は、貴方様のものとなりましょう」と。


それに驚き、竜神は百合へと『どんな願いだ』と詰め寄れば、百合は空ろに虚空を映し出していた瞳を竜神のそれにあわせ、淑やかに笑みを浮かべてこう言った。




















「私の願いは
私が住んでいたあの村の人間を一人残らず殺してきてくださいな」と。




















竜神は百合が初めて望んだことに嬉々としてそれを叶えに村へと下りていった。


村から離れたここまでは、村人たちの恐怖に泣き叫び、逃げ惑う叫び声が届くことはなかったが、百合は、ただ静かに笑みを浮かべ再び、何もない薄暗い虚空へと視線を投げかけたのであった。




























『起きて下さい。もうとっくに戦いは始まってしまっているのですから     。』






[第1夜 完]









 ⇔ 



<アトガキ>

長らくお待たせしました!【人形の見る夢】第1夜無事完結いたしました!!!

ほんっと長かったですよ。。。たった5話で(遠い目)。

とりあえずのところ、百合の第1夜-1夢の始めに言っていた願いがここで判明するわけなんですが・・・私の稚拙すぎる表現でどこまで表現できてるのかが分からないのが難点ですね(泣)

あとで、サイトにUPしたのを読み返して、誤字脱字や表現の書き直しもちょこちょこしていこうかとは思っています。


ちなみに、この第1夜の2夢〜5夢の途中(最初と終り)に黒と同化しかけの科白は、第2夜で判明予定です!



また、この人形の見る夢は、まだまだ続きます。登場人物や舞台はガラッと変わってくるとは思いますし、グロ話ではなく、本当に普通の日常的な話になるかもしれません。そこは一人の人が見ている夢の続きですので、ご容赦下さいませ。



今のところいくつかプロットで出来上がっているのは、SFかホラーかなんですが・・・もしかすれば全く違うのを書き綴るやも、また、別に閑話的な話を一つ入れるかもしれませんがその辺も楽しみにして(くれる方がいらっしゃれば)いただければと思います。



それでは、長らくのアトガキとなってしまいましたが、次作もどうぞお楽しみを!!!