穏やかな秋の午後。


母子は黄金に輝く稲穂が実った田を横に、あぜ道を鼻歌を歌いながら仲良く手を繋いで歩いている。


「!お母さん、見てみて!真っ赤なお花」


子供が道の先の水路の側で群生していた花を見つけ、駆け出し母を呼ぶ。


「ああ、それは≪曼珠沙華(まんじゅしゃげ)≫ってゆうのよ」


追いついた母は、腰をかがめ、子供の頭を撫でながら答えた。


「まんじゅしゃげってゆうお花なの?」


「いいえ、これはね花は咲いているけれど、草の仲間なの。曼珠沙華ってゆうのは、この草の別の名前で他にも別の名前がたくさんあるのだけれど、この草の本当の名前は≪彼岸花(ひがんばな)≫ってゆうのよ」


「ひがんばな?ひがんばな。・・・でもたーくさんお名前があったら、ひがんばなさんも、よく名前をおぼえられるね!えらい、えらい!」


そう言って、子供は彼岸花の花弁の先を撫でるように小さな指先で撫でると、花もくすぐったいのか身体を揺らしてその指を除ける。


「そうだ、お母さん。僕の名前の≪星夜≫って名前は、お星さまがいーっぱい見える夜に僕が生まれたから、あのお空のように広い心と、お星さまのようにかがやくみらいがくるようにっていみでつけたって教えてくれたでしょ?このひがんばなさんにも何かいみがあるの?」


それに、そうね・・・と母は暫くして答えた。


「春分の日っていうお休みの日と、この間あった秋分の日覚えているでしょう?あの日をちょうど真ん中にして、その前と後ろの合わせて7日間を彼岸(ひがん)とゆうのだけれど、ちょうどその頃に咲くから彼岸花ってゆうのが皆がしってる名前の意味かな?」


「そうなのかぁ」


おそらくは半分以上よく分かってはいないのだろうが、それでも得心のいった顔をするものなので、それがまた可愛らしく母の目にはうつる。


「また、別の意味もあるけれど、これはあまり皆は知らない話ね」


そう言って母親は物語を話し始めた。とても、とても哀しいお話。


「昔々・・・まだこの彼岸花のことをみんながまだ知らないときのお話。ある緋ヶ(ひが)という名前のお金持ちの家がありました。そこの一人息子と、彼の家で働いていた少女が恋をしました。一人はお金持ちの家の子で、もう一人は貧しい家の子、身分違いではありましたが、二人は恋におち、そして幸せに暮らしていました」


「ほぁ、ハッピーエンドですね!」


興奮気味に話す子供に母は、続きがまだあるのよ、と優しく微笑んだ。


「だけれど、彼にはすでに別の家のお金持ちの家の女性と結婚することがきまっていて、彼は貧しい家の女の子を邪魔に思うようになりました。そこで彼は少女に『一緒に家を出て暮らそう』と声をかけました。少女は大層喜んでいましたが、もちろん彼にはそんな気持ちは全くありません。」


「ひどいよぉー」と泣き出しそうな子供の頭を優しく優しく撫ぜながら「そうね」と母。


「彼は彼女と町のはずれの一本松の木の下で落ち合うことにしました。彼女は一足先にその木の下のところで待っていましたが、いくら待てども彼はきません。そこに現れたのが一人の男。彼はナイフを持っていて、少女を襲い、殺してしまいました。その男というのが彼が雇った殺し屋だったのです。そのことを知らない少女は、彼の無事を願い、たまたまそこに咲いていた白い花を見て、神様にお祈りをしました。『どうか、神様、私の願いをお聞きくださいませ。どうか私をこの白い花にしてください。彼の無事をここで咲いて願いたいのです』。息を引き取るその時までそう願い続けた彼女を哀れに思い、神様は、少女の願いを聞き届け、彼女を白い花にしました。ある時、ちょうどそこを通りかかった一人の女性が、美しい白い花になった彼女をつんで、愛おしい彼に送りました。皮肉なことに送った彼と言うのが、少女と家を出ようと約束をしたあの人でした。彼は、その花を持ってきた女性―この女性というのが、金持ちの結婚相手の女性のことで―とすでに結婚していました。花になった彼女は、それでも彼が幸せに暮らしていることを嬉しく思い、彼のために美しく咲き続けようと思いました。しかし、またその幸せも長くは続きませんでした。彼の家に一人の男が訪ねてきました。その男こそ昔少女を殺したその人。その男は、少女の白い花の側で、彼が彼女に嘘をついていたこと、そして、殺し屋の自分に少女を殺すように命じたことを全部話しました。白い花の少女は、そこで初めて彼の裏切りを知ってしまったのです。白い花の少女は、神様に昔の自分の姿に戻してくださいとお願いをしました。彼が裏切るなどと、しかも自分を殺そうなどとしたとは、到底考えられなかったのでしょう。彼に会って、それが嘘であることを彼の口から聞きたかったのです。本当は、一度死んでしまった人をもう一度生き返らせることは赦される事ではなかったのですが、あまりにも憐れな少女の声に神様は胸をうたれ、一つ少女と約束をしました。『もう一度昔の姿にしましょう』と。『彼の前に昔の姿のままでだしてあげよう。しかし、貴方は話すことが出来ないだろう。』それは、花になってしまったため、少女が話すことを忘れてしまっていたからです。『そして、もし、そんな君を見て彼が君を抱きしめたなら、もう一度貴方を人にしてあげましょう。・・・ただし、もし彼が貴方をもう一度殺そうとしたなら、貴方は赦されない罪を犯した罰で、罪の炎によって焼かれて死んでしまうでしょう』と。それでも構わないと言う少女に、神様はもう一度彼の前で昔の少女の姿でだしてくれたのでした」


「それで、その白い花の女の子はどうなったの?」


恐る恐る聞いてくる子供に、母は寂しそうに微笑みました。


「・・・彼は彼女を抱きしめることなく、死んだはずの少女が蘇った事に恐怖して、再び彼女を殺してしまおうと、その首に手をかけたのです。・・・その瞬間、彼女の周りは赤い炎に包まれました。神様が言っていた罪の炎です。彼はその炎に驚き、慌てて部屋を飛び出していきました。しかし、どこも炎の渦に包まれており外に出ることが出来ずに、彼は必死の思いで、屋上へと逃げました。・・・しかし屋上もまた炎の海。もう駄目だと彼が空を仰いだとき、あの少女が現れました。自分が殺そうとした少女です。少女の全身はすでに罪の炎によって朽ちかけていましたが、最後の力を使って少女は、彼に覆い被さりました。」


子供は真剣な顔をして聞いています。


母は、そっと子供を抱き寄せていいました。


「・・・その火は、太陽が昇る前には消し止められました。彼の家はもう床を残して何も残ってはいませんでしたが、あの火事の中何とか逃げ出せていた彼の奥さんは、その瓦礫の中に奇跡的にも生きている彼を見つけたのでした。多少の焼けどはあるものの、あの炎に包まれていたとは考えられないほど無事な姿に、奥さんは泣き崩れ、目を覚ました彼も、無事を泣いて喜びました。そして、その時の彼の胸の上には、焼け焦げて赤黒くなってしまった一輪の白い花があったそうです。」


そこまで話すと子供は、頬を高潮させ、興奮気味に言った。


「もしかして、あの白い花の女の子が炎から彼を助けたのかな?自分を殺そうとした人なのに」


「・・・そうね、そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれないわね。・・・その罪の炎にまかれる瞬間、少女が何を思って彼に覆い被さったのかは、その少女にしかわからないもの」


むむむ、と唸る子供の頭をなぜて母親は立ち上がると、子供の手を引き歩き始めた。


「・・・この話には続きがあって・・・彼はその後、その少女のお墓を作って、そのお墓にその赤い花をよく供えたそうよ。その赤い花を持って歩く彼の姿を見て、町の人は彼が持つ花・・・ということで、緋ヶの花と呼ぶようになり、それから転じて、≪彼岸花≫って言うようになったそうよ」


へぇ・・・と頷く子供に、母親はあぜ道に群生する彼岸花を見、そして、澄み切った空を見上げ、少女を想った。






















   【   名   モ   無   キ   花   】   

          †...   Fin   ...†           



















 ⇔ 





≪コメント:や・・・やっと終わった。初めて最後まで書いた小説ですが・・・きっとボロボロなんだろうなぁ;;

昔、ある話を聞いてから、私は彼岸花が怖くてしょうがなかったんです。

その話というのが、彼岸花を取って帰って家に飾ると、火事になるというやつです。

小さいとき、彼岸花の花がすごく綺麗だと思ってうっとりしていた自分にそんな話をしたのは、何処の誰だったか・・・

もう思い出すことはできませんが・・・なんとなく、このことを考えていたら思いついた話。

もちろん緋ヶの花が転じて彼岸花になんて、なっちゃいません!管理人が勝手に考えたやつなんで信用しないように!

懺悔というか・・・最後の母親が子供に語っていた物語は、その前までの話とは若干異なるとは思いますが、

まぁ、それは童話・・・物語の一つということにしておいてやってくださいまし(^^;)

最後に、こんな駄文と駄作をここまで読んで下さいました皆様には感謝の言葉の他なく・・・本当にありがとうございました!

それでは、また別の機会に、今度はもっと文才をあげて頑張らせていただきます!ではでは〜!!≫