【  世界の終焉の先にあるものは?  】  





















1.




















穏やかな午後の昼下がり。

柔らかな風が木々の木の葉を枝を揺らす。

晴れ渡った雲ひとつ無い青空と一本のなだらかな道が地平の果てで交わっていた。

中天をわずかに傾いた緩んだ太陽の光がその道の途中に佇む大小の人影を地面に縫い付けていた。

「・・・どうですか?」

問いかけたのは大きい影のほう。二十代前半といったぐらいの男。

「直りそうですか?」

小さな影の方の主人の手元を覗き込むようにして聞く男の背は高く、細身で、後ろで一つに緩く結んだ長めの髪が、風で揺れている。

「・・・駄目」

別の声は小さく高くて、随分幼い少年。日光に当てられて髪が透明に透き通って見える。それは、彼の髪が空の雲のように真っ白な白髪であったから。

「完全に機嫌を損ねた」

完全に機嫌を損ねてしまったもの・・・それは少年が持つロザリオ。クラシカルに落ち着いた色合いとささやかな飾りのついた簡素なロザリオで、変わっていることと言えば、そのロザリオについた白い小さな羽。

ブーン・・・ブーン・・・と小刻みに震わせているが、それ以上なんの反応も無い。

「あ、ほんとだ。これじゃあ、ちょっとやそっとじゃ直りそうも無いですよね、彼女」

彼女、というのはこのロザリオのこと。少し気難しい性質な彼女は、疲労の蓄積がある一定許容量を超えるとこうして羽を鳴らせて不満を訴える。

そしてそのまま何も講じずにいると・・・。

「・・・止まった。」

「止まっちゃいましたね」

震わせていた羽を止めて、広げていた羽をロザリオの中に収納して隠してしまう。それは、彼女が完全にすねてしまった証。そうなってしまえば、もうここで出きることはない。

そこで青年が背に負った鞄から取り出したのは、この近辺を詳細に描き綴られた地図。

「・・・この近辺にある国で、彼女を直してもらえるほどの大きな教会があるとしたら・・・ここか」

そして差された地図のある一点。綴られた名前は――・・・。

「グレゴリウス・・・」
























薄暗い森の中。整備されていない凸凹の道がその森の中央部を奥まで突っ切るように走っている。

多い茂った枝や木々の木の葉の僅かな隙間からキラキラと零れ落ちる日差しを辿り、だいぶ陽が西に傾いたのだと知る。

辺りには、わずかに夜の涼やかな匂いが風に混じり始めていた。

「地図から見ても、そんなに大きな森ではないと思っていたんですがね・・・」

足早に進みながら、細分化して折りたたんだ地図を眺めながら青年は、長めの髪をかく。その青年の顔は、僅かに顰められている。薄暗いせいではっきりとは分からないが、随分と整った顔立ちをしている。

はぁ、と青年は一つため息をつき早足のまま背後を振り返る。

「すみません、クロト。どうやら読み違えをしてしまったようです。もう少し近場で探せばよかったですね」

背後を歩く少年―・・・クロトに対して、気遣わしげに声を掛ける。

「・・・リヒトの判断は正しい。このあたりで一番大きな教会といったら、僕でもグレゴリウスだと答えるよ」

肩がむき出しになっていて、幅広のジッパーで両開きになるようなデザインの黒のトレンチコートをはためかせ、小走りに走るクロトの白い髪は、僅かに汗で額に頬に首元に張り付いている。

そっと小さな手が、己が胸の上に手を当て、その下にある今はすねたまま眠りについてしまった彼女―・・・ロザリオの感触を確かめ、クロトは「それに・・・」と続ける。

「・・・それに、彼女を直せそうな教会があるのもあそこしか検討がつかない」

「それもそうですね。・・・でも、まぁ、いいかげんこの森も見飽きたし、そろそろ陽も暮れそうだから、早く到着したいですね」

「うん・・・僕も疲れた」

この森に入ってかれこれ3時間ほど経った。整備されていない凸凹の道は足場が悪く、大小様々な石があちらこちらに転がっている。それからずっとこの調子で歩き続けているので、歩いて旅を続けているため、体力にはある程度自身のある二人にも疲労の色が見え始めていた。

時が経つにつれ噴出していた汗も引き、逆に迫り来る夜の夜の冷気に肌寒ささえ感じるようになって来たころ、前方の木々の合間にコンクリートで固められた壁と、大きな鉄製の門が見え始めた。

「・・・着いた、グレゴリウスだ」












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