【  世界の終焉の先に待つものは?  】  





















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グレゴリウス入国審査場の一室。

そこは、随分静かな空間であった。

二十畳ほどの室内には十人ほどの人が忙しく働いているにもかかわらず聞こえてくるのは、ペンが紙の上を走る音と印刷機が印刷中に奏でる独特の機械音のみ。

「そう言えば、クロト・・・先に聞いておきたいことがあるんですが」

ふと、受付カウンターにて入国の際に必要な書類にサインをしていたリヒトが、隣でぼんやりと窓の外を眺めていたクロトに尋ねた。

「さっき・・・と言っても随分前になるんですが、ここに向かう前、私が『グレゴリウス』という国名を口に出したとき、少し嫌な顔をしたでしょ?あれは、どう言う意味だったんですか?」

その問いに「分からない」とでも言うかのように眉を少し寄せ、ちょこんと首を傾げるクロトの姿に、「そう、それですよ」と、きゅっと寄ったクロトの小さな眉間を優しく撫ぜる。

「眉をちょっと寄せて何か考えこんでいたでしょう?」

それに対してクロトは、無言のままリヒトの側を離れ、室内の端に追いやられるようにしてある長椅子にちょこんと座る。

リヒトは、残りの書類に急ぎサインをすると受付の審査官に手渡し、クロトの側へと足を向ける。

「グレゴリウスに何かあるんですか?」

俯くようにして座り込み、コンクリートの床に届かない足をブラブラさせているオリトに優しく語り掛ける。

「私には話してはもらえない事ですか?」

「そうじゃない・・・ただ僕の中の気持ちの問題だけ。昔の記憶をちょっと思い出しただけだから」

緩く首を振るクロトの表情は変わらず無表情のままだが、長い付き合いになるリヒトにとって見れば、その顔は今にも泣き出してしまいそうに見える。幼い少年の柔らかな白髪の髪を優しく撫ぜながら、「ここを出て他を探してみましょうか?」とのリヒトの問いに、クロトは頑なに否と言う。

「・・・大丈夫。あれからもう、とほうもないほどの時は経っているから、昔とは違うと思うから・・・だから、大丈夫。それに、彼女はもう動けないよ」

クロトが胸から取り出したロザリオは、クロトが言うようにただのロザリオと化していた。しかし、大丈夫と言う割りに、少年の抜けるように白い肌は、より血の気が失せ青白くさえ見える。無理をしているのは一目瞭然だった。

その様子にリヒトはため息を一つつき、こう提案をした。

「分かりました。入国はしましょう。彼女も教会に連れて行って直してもらいます。ただ一つ約束してください。クロトの思う嫌なことがあったらすぐに私に言ってくださいね。ここをすぐに出ますから」

その提案に渋々といった風だがリヒトが頷くのとほぼ時を同じくして、入国許可証が発行されたとの知らせを受け、許可証を受け取りにゆくリヒトを横目にクロトは窓の外をもう一度眺める。

小さな枠に切り取られた空は、夕闇が迫っていた。

赤く燃え立つ火のような西日の射光から伸びた先、黒煙のような闇がそれと雑じり、「あの日のようだ」とクロトは思った。












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≪コメント:国内に入ってからが長くなりそうなので、いったんここで切らせていただきました!≫