【  世界の終焉の先に待つものは?  】  






















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目的の教会は、グレゴリウスの中央をはしった大きな通りの先にあった。

バロック様式を組んだと思われるその造りや装飾は、華麗さにはかけるものはあるかもしれないが、それを圧倒するほどの緻密さがあった。またこの国独特の薄墨のような黒壁と空を彩る藍色を過分に含んだ闇色と相まって、荘重な雰囲気を醸し出している。

「・・・想像以上に大きな教会ですね。あそこを見てください、クロト。とても美しいですね・・・」

「・・・ほんとだ」

ほぅっと、ため息をつくリヒトが見上げている視線の先、クロトの小さな背からは、首を90度以上反らし上げねば見えぬもの。教会に聳え立つ二対の塔にある巨大なステンドグラスに描かれた子を抱き、慈しむように微笑む聖母の姿。赤や黄、青・・・といった大小様々な色取り取りの着色ガラスが塔内にある灯火に揺らめき映し出され、闇夜の街に浮かび上がっていた。

しばらくその美しさに見入っていた二人を現実に立ち戻らせたのは、野太い男の声。

「何だい、何だい、この教会に客ってか!珍しいーねぇ!」

その男は、教会前に横付けるようにして止まっていた荷車から降りてきた。近づいてくる男の身長は随分高い。リヒトも高いが同じぐらいか、それ以上にさえ見える。それは、その男の筋肉質でがっちりとした体系から圧倒される雰囲気によるものだろう。えらの張った角顔で酒飲み特有の赤ら顔。四十をまわった頃か。短髪に太い眉、眉間に皺が濃く刻まれたその男は、シニカルな笑みを浮かべていた。

「少年たちは、ここらじゃ見ない別嬪顔じゃねぇか。ん〜」

近寄って値踏みをするような男の視線を、クロトを男の視線から隠すように自らの背で隠し、男の前に立ちはだかるリヒトの顔には、あからさまに不快感を露にしていた。が、しかし、男は、ふんふんと何やら頷いたかと思うや、

「少年は・・・ややっ、青年は、二十四、五ってところかい?」

と、リヒトに訊ねるのに、リヒトは、

「それに答える義理は貴方にはありませんね」

と、冷ややかに、そして、さも嫌そうに答える。それに対しても歯牙にもかけない男は、今度はリヒトが男を制するように伸ばした手をよけ、背後にいたクロトの方に近寄り、抱き上げた。

「やや・・・!君は、十ぐらいか!」

「ちょっとあんた何やってるんです!!」

クロトを検分するように、上に下に斜めに持ち上げて見せるのをリヒトが奪い返し抗議の声をあげるのに、

「・・・8」

と律儀に答えているクロト。

「クロトもこんな礼儀知らずな男に律儀に答えないで下さい!」

クロトは外見に似合わなず、随分博識で大人びた子供だ。基本的に無口で、あまり表情を表に出すことがなく、どんな状況下に置かれたとしても第三者的な冷静な目を忘れたことなど、リヒトが記憶している限りない。しかし、たまに、思いがけず歳相応の素直な反応をみせることがあったが、何もこんな時にださなくても、とリヒトは思う。こういった礼儀も何も弁えていないような者に対していちいち取り合っている暇も無いこと、埒が明かないということも、また何らかの揉め事に巻き込まれたりすることもあるだろうことは、今までの旅の中で得た経験から、明々白々の事実だ。止めるリヒトの声が、必死に真剣みを増すのも分かる話だ。

「そうか、8歳か!いやぁ〜、実にいいねぇ、健康そうだし、丈夫そうだし・・・しかし、残念だ、珍しいアルビノ種なのにねぇ」

「!!!」

その言葉に素早く反応したリヒトは、クロトの薄い肩を自分の下に引き寄せ、足早に教会へと向かう。

「さぁ、行きますよ、クロト!」

ずんずんと進むリヒトの大幅な足並みにじゃっかん引きずられるようにして小走りに歩くクロトは、荷車の側を通るさい、その荷の積まれているだろう方に視線をやった後、背後にいる男を一度だけ見る。

ずいぶん後方にいた男の表情は、街路灯だけでは判断つかなかったが、ふらふらと降ってきた男の大きな手だけが目に残った。















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≪コメント:次こそ教会へ!本題はそこからです。ちなみに伏線は、あちらこちらに張っているつもりです・・・これでも(^−^;)ノ≫