【  世界の終焉の先に待つものは?  】  





























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教会の入口の扉は硬く閉ざされ、押しても引いてもびくともしない重厚なそれは、何者も寄せ付けぬのように聳え立ち、ここを訪れるものをなぜか遠ざけているかのようにさえ感じた。

そして、そう感じさせてしまう理由が、通常、来客を知らせるために設置されているはずの鐘は、本来ある場所に存在せず、それを鳴らすための木槌だけが壁につるされているような状態だ。

陽はすでに西の空に沈んでおり、空一面には漆黒の闇が降りていた。東の空には、一際大きく紅く輝く月が顔を出しており、望月・・・というにはいささか陰るさまが妙に心に迫るものがある。

「すみません!どなたかいらっしゃいませんか!!すみません!!」

声を張り上げるリヒトの声が、扉に反射し闇の中へと吸い込まれてゆく。何度誰何の声をあげようとも返るのは、同じ静寂のみ。

「まさか、誰も居ないなんてことはないですよね・・・。さっき街中に響き渡るように鳴らしていた鐘もこの教会の塔の上にある鐘楼でついていたんでしょうし・・・クロト、裏でもまわってみますか」

気温も昼間とは違いぐっと下がり、コートを羽織っていてもなお肌を伝う寒さは弱まることは無い。このままここに留まれば、先ほどのような無粋の輩がいつ来るとも分からない。裏へまわればその過程のどこかしらで人の気配でも感じられるかもしれない。そう思い問いかけたリヒトの声に、クロトは小首を傾げて、「・・・空いてるみたいだよ」と言う。

「え?空いてるって、扉ですか?だってさっきは開かなかったじゃないですか」

「・・・でも、空いてる」

クロトの言に半信半疑で全体重を扉にあずけ力をこめて押せば、扉の下の鉄の錆びかけた桟が擦れ、悲鳴のような軋みを上げ扉はゆっくりと開かれた。扉一枚でも随分な重量があったのだろう。出来た隙間は人一人が僅かに通れるほど。

「は・・・ほんとに空いてる」

小さく吐息のような笑いを零し、クロトを中に入れ、自分もその隙間に身体を滑り込ませれば、重厚なその扉は開けたとき同様、軋みながらその空間を閉じてゆき、派手に大きな音を立て再び硬くその戸を閉ざす。戸の閉まる反動で、上から勝手に錠が落ち鍵がかかる仕組みになっていたようだ。

室内は随分暖かく感じた。それは入口を入ってすぐ前に開けたホールがあり、そこの壁際に設置された暖炉に火が入れられていたからだ。パチパチと木々が爆ぜる音が室内に反響している。その炎の明かりと、壁際に一定の間隔を空けて掛けられていた角灯に灯されている蝋燭の炎の灯りが辺りをぼんやりと照らし出していた。

周囲を見渡すと、ちょうど二人が立っているこの場所が待合室か、談話室か・・・そういった場所なのだと察せられた。年代を感じさせるような木でできた3、4人程が腰掛けることができるようなアームチェアが、小さな机を挟んで対面式に数脚と、窓際には観葉植物が置かれている。室内のずっと奥の中央には上階へ行くための幅広な階段があった。

「人は・・・いるみたいですね。暖炉も火が入っているし、掃除もされているようですしね」

壁を指でそっとなぞったリヒトの指についた汚れは、わずか。

「・・・人はいるよ。さっき街で会った女の人が教えてくれた。街の子供達は皆、この教会に青年式を迎えるまであずけけられるそうだから」

「寄宿・・・のようなものですか?」

「・・・それは――」

クロトが何かを言いかけたのを遮るように、どこからか高く透き通るような歌声が聞こえてきた。まだ声変わり前の子供独特の声音が奏でるハーモニーが室内に満ちる。

「賛美歌・・・?あの奥からきこえるようですね。行ってみましょう、クロト!」

クロトが頷くのを確認してから先を行く青年の背に向けて発せられた小さなクロトの声は、ちょうど暖炉の中で爆ぜた木々の音によって、掻き消えた。












『・・・監獄だよ。魂を繋ぎとめるためのね』














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≪コメント:短くてすみません;;ちょうど区切りも良かったんで、ここで切りました。≫