【 世界の終焉の先に待つものは? 】 |
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壁にいくつも取り付けられた角灯が周囲を照らし出していた。
しかし、その場所―・・・講堂の中は広く、天井も随分高い位置にあったため、隅々まで届くにはあまりにもその灯りは儚い。
ふと、室内に幾重にも重なるようにして音が溢れる。講堂の奥、壇上の側の壁際に配置された高さ10メートル、横幅は15メートル程にもなろうか―・・・無数の大小様々な音管を音階的に配列されたパイプ‐オルガンは、その前に座るシスターによって奏でられたものだ。
『 永遠の眠りにおちて 母なる大地に還ろう 』
そこに歌声が合わさる。どこまでも高く、どこまでも透き通った声域は、ソプラノやボーイ‐ソプラノ。まだ声変わりもしていない少年や少女達のものだった。
『 心安らかならん御霊は 神の御許へと 』
壇上の上で高らかに神への愛と信仰を謳っている子供達は、十数名数えられる。
『 導きの光が天より差して 悲哀(かな)しみに沈む皆々の心を慰めん 』
彼らが胸の前に持つ火の灯されたキャンドルが声量に震え、背景の聖母を象ったステンドグラスが揺らめき陰りを帯び、僅かに微笑する。
『 嗚呼、愛しき我が神よ 嗚呼、愛おしき我が神よ・・・ 』
歌が終わると、パイプ‐オルガンもその音曲も静かにその終わりを迎えた。
「・・・すごい、すごいですね!」
ふと、講堂内に包まれた静寂の中、わずかに興奮に滲んだリヒトの声と拍手が響き渡る。
「今まで、天使を見たことが無いので、どのように話し、どのように謳うのかなど到底想像しようがありませんが・・・これがそうだと言われるなら、納得してしまいますよね!ね、クロトもそうは思いませんか?」
「・・・そうだね。確かに、とても美しい歌声だ」
クロトの頷きを見、嬉しそうに相好を崩すリヒト。
「あの、失礼ですが・・・あなた方は?」
一人のシスターが二人の側まで来ると、訝しげに誰何する。
それに、リヒトは「失礼を―」そう言って、片足を立てるように跪いて一度頭を垂れ、立ち上がると。
「私は、リヒトと申します。こちらは、クロトです。私たちは―」
『私たちは―』そう言ってリヒトが懐から自分達の“身分証”となるものを取り出そうとするその腕を、小さな手がそれを引き止める。
「クロト?」
随分下にあるクロトの方に視線をやれば、薄暗い影の中煌く紅の瞳とかち合った。リヒトは、その瞳の中にある意思を正確に読み取ると、しばし素早く思考を巡らし、先ほどの言葉に続ける。
「・・・私たちは、二人でエリアデルからローアンまで旅をしている途中だったのですが、この国の側にあった森で野宿をしていたところを夜盗に襲われ、命からがらこの国まで逃げてきたんです。慌てていたので持ってこれたのは、身近に置いていたこの荷物だけで」
そこで肩にかけてあったリュックをかけ直し、
「出来れば一晩、こちらで休ませて頂けたらと思いまして伺わせていただきました」
そう言って、再び膝を折り丁寧に礼を取ると、
「ほら、クロトからもちゃんとお願いしなきゃ駄目だよ?」
と、微笑みかけるのに、クロトは僅かに肩を揺らし、瞬の間、リヒトにだけ分かるような不機嫌な顔をした後、眼前のシスターの側まで寄ると、やおらその修道着の袖を小さく摘み、
「お姉ちゃん・・・お願い」
と、小首を傾げ上目遣いに懇願する。その表情は、見事に8歳の子供のそれで、リヒトは心の中だけで苦笑した。
「・・・そうですね。神父様にお伺いしてみますので、どうぞこちらへ」
シスターは側にあった角灯を一つ取り、促すようにその灯りを行く先へと向ける。その先は今ほど二人が来た道で、二人はシスターの行く後をついて講堂を出て行った。
その姿を、二十数の対の瞳が見ていた。
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≪コメント:改めて今思うことは、クロトとリヒトの性格がいまいち掴みづらいことですね;
改めて、設定を近いうちにでもUPしようかと考えてはいるんですが・・・設定を書かなきゃ分からないような小説を書くなとあちこちから言われそうです(痛)
これもいつかの話で、主人公たちのイラストでも描けたらなぁ、なんて思っていたり。
次回は、神父様とご対面。今回主人公たちの身分を明かさなかったのも、一応今後の話の為ですね。≫